Journal
鞄に辞書までつめこんで2020.06.08
炭酸水と断末魔。
中学では陸上部に所属していたので、夏休みもほぼ毎日グラウンドにいた。
その日は「この夏イチバンの暑さ」で、ド快晴。
入道雲に、蝉の鳴き声。
体育館に響くドリブルの音と、
グラウンド中に聞こえる笛の合図。
陸上部が休憩にはいる合図だ。
汗と日焼け止めのまじったものをダラダラと垂らしながら、
体育館横にあるウォータークーラーに向かう。
その日の私はゼロキロカロリーのソーダを持ってきていたのだけれど、
「うわ、間違えてただの炭酸水買ってもうてた!まっず!!!」
という状態だったので、ウォータークーラーの水を飲むしかなかったのだ。
いちばん奥にある台に近づくと、
切れたヘアゴムのようなものがある。
誰かの落とし物かなと思い近づくと、ゼンゼン違って、ミミズだった。
「ぎぇえ!ミミズ!」
好きな男子には聞かれたくない下品な悲鳴がでる。
よく見ると、のそりのそりと、僅かに先の方を動かしていてより一層キモい。
コンクリートの真上にいるし、死にかけのようだった。
「きもっ!ゼッタイ踏みたくない!」
いつもなら、そう言ってひとつ手前の台から水を飲んだだろう。
そのとき、私がもう飲みたくない炭酸水をその手に持っていなければ。
「こいつって水つけたら蘇るんかな?」
またそうやってどうでもいいことを思いつく。
「ほうら、おみずだよ」といって、
もういらないペットボトルから炭酸水をドボドボと垂らした。
その瞬間だ。
ギュルギュルギュルン!!!!!!!!
ミミズは、切れたヘアゴムから火が付いたねずみ花火になった。
「ぎぇえええ!!!!」
悲鳴を上げながら逃げる。近くにいた部員たちも全力で遠のいた。
安全な距離を保って振り返ると、
ミミズはまだビタン!ビタン!とのたうちまわっている。
ミミズの生態にはまったく詳しくないけれど、
どう見たってそれは苦しんでいた。
無秩序に弾ける炭酸の泡に合わせて、無音でのたうちまわるミミズ。
炭酸の音が、まるで断末魔だ。
十数秒後には、火が消えたように動かなくなった。
水がダメだったのか、炭酸がダメだったのか。
普通に死ぬはずだったミミズにとんでもない最後を与えてしまったようだ。
そのままグラウンドに戻り、部活を終えて帰宅するころには、
もうその出来事なんて忘れていた。
もう、二度と思い出さないだろうと思っていた。
しかし、まさかまさかで
ひからびたミミズを見る度にこのシーンが蘇るようになってしまった。
しかし、まさかまさかで
ひからびたミミズを見る度にこのシーンが蘇るようになってしまった。
正直、めっちゃいらん記憶であるが、なかなか消えない。
もしかすると、あのミミズの呪いなのかもしれない。
この時期は、そこら中の道でミミズがひからびているので、
見かけたらぜひこの話を思い出してほしい。
そして、悪人のみ、炭酸水をふりかけてみてほしい。