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広報部2020.06.12

【クライアント×クリエイター「実案件」トークセッションvol.01】 イベントレポート ~前編~


2020
63日(水)20:0021:30Zoomを使ったオンラインイベント【クライアント×クリエイター「実案件」トークセッションvol.01~地域の中で存在感を高め「選ばれる企業」をつくる!~ブランディング+看板コンテンツ展開】が開催されました。

 

▷イベントページ:peatix

 

Rockakuが企画・運営するこのイベントは、各社Webサイトの実績紹介で語られにくい、制作前段階での細かなエピソードや、制作・納品後の動きなどについて紹介するトークセッション。クライアントとクリエイターの両者からのトークで、“実案件”の中にある試行錯誤とクリエイティブの実態をリアルに伝えていこうというシリーズ企画です。

 

その第一弾となる今回は、不動産会社エスエストラストの【ローカル「おもしろ」看板】をピックアップ。約6年間で40箇所以上、地元・八王子の人が楽しめるユニークな屋外看板を展開しているこの施策は、地元紙やSNSで話題を呼びYahoo!トピックスやTV番組『マツコの知らない世界』まで進出しました。約30名の参加者を前に、この“実案件”のクライアントであるエスエストラスト、クリエイターとして制作を手がけるセルディビジョン、Rockaku3社が、その前段階であるブランディングのプロセスや看板制作のポイント、そして看板の反響についてのトークを繰り広げました。

 

◎出演者紹介


《クライアント》

株式会社エスエストラスト 代表取締役 杉本浩司
八王子市・日野市・多摩市でアパマンショップ7店舗、エスエストラストとして1店舗、計8件の不動産店舗を経営。そのほかにも、ブラジルダイニングバーNOSSAやコワーキングスペースfabbit八王子の経営、サッカーチーム・東京ヴェルディとのパートナー契約など、多岐にわたる事業や活動を展開している。

 

《クリエイター》

株式会社セルディビジョン ディレクター 木部 輝昌 

ブランドデザインを専門とする制作会社。企業のビジョン・理念構築や、ロゴマークなどのVI制作、Webサイト制作、さらには調査・分析や店舗設計、ブランドスタート後のマネジメントを通して、中長期的なブランディングを手がけている。

 

《クリエイター》

株式会社Rockaku 代表取締役 森田哲生 

幅広く「ことば」に関する仕事をおこなう、コピーライター事務所。キャッチコピーやブランドメッセージ制作のほか、企画やWeb設計なども得意としている。八王子市出身であるという縁から、スタッフとともにこの“実案件”に参加。そのつながりから八王子市のブランドメッセージ開発にも携わった。本イベントの主催者。

 

◎「サッカー×ブラジル×八王子」の事業展開

まずは各登壇者の自己紹介からスタート。その流れの中で、今回のテーマである看板コンテンツの発端とも言える、エスエストラストの事業展開やブランディングの方向性を決定づけたエピソードが語られました。

 


杉本「先輩や友達がサッカーチームの東京ヴェルディにいるということもあり、パートナーとしてその試合のスタジアムモニターに『アパマンショップ』って映し出してたんです。場内放送では『アパマンショップ・エスエストラストへ』って流れて、ファンの人が『おー!』と叫んでくれていました。ただちょっとそこで違和感を覚えたんですよね。うちはアパマンショップさんのおかげで成長してこれたけど、自分はあくまでもエスエストラストの社長。アパマンショップをアピールする前に、エスエストラスト自身を地元の八王子にアピールしたいと思いました」

 

↑「エスエストラスト」としてブランディングをはじめた後の東京ヴェルディ戦の様子。ブランディングをはじめる以前、ここに「アパマンショップ」と大きく表示されたことが一つの転機となった。

 

森田「サッカーでブラジルに留学されてたんですよね?」

 

杉本4年くらい。地域の方から見たらサッカーブラジルというのが杉本浩司の代名詞みたいになっていたので、自分を客観的に見るとこのキーワードは会社のブランディングに使えると考えたんです。お客さんや社員が集まる場所としてひとつコミュニティをつくりたいと思っていたこともあって、そのキーワードからブラジルダイニングバーNOSSAをつくりました」

 

 

杉本「不動産業は、その地域があって成り立つ商売。地域が盛り上がると、住みたい人が増える。だから、『八王子が盛り上がることをやろう』と動いてました。するとだんだん、地元で『杉本さんって地元を盛り上げることやってるよね』というイメージがついてきて。市役所や地元の多摩信用金庫さんからお声がけがあり、都の制度を使ってアパマンショップさんと共同でコワーキングスペースfabbitをやることになったり……徐々に地元での活動に広がりが出てきたんです」

 

◎「不動産屋がここまでやるか」誕生のきっかけ

自己紹介の後はいよいよ本題へ。まずは、2014年、セルディビジョンとRockakuによってつくられたコミュニケーションワード「不動産屋がここまでやるか」。どのようにしてこのコミュニケーションワードが生まれたのか。そのエピソードを杉本さんが語ってくれました。

 

 

杉本「僕の先輩である経営者の方から、『杉本さん、金沢にすごい不動産会社があるから、来いよ!』と言われて実際におじゃましたことがありました。それが、金沢の“のうか不動産”。その苗加社長にブランディングについてのご指導をいただいて、『うちでもこんな感じでブランディングをしたい!できるかも!』と思い、東京で一緒にやれるクリエイターを探し始めました。

 

紹介でセルディビジョンさんに行き着いて、さらにセルディビジョンさんと一緒に仕事をしているRockakuの森田さんとも知り合いました。よくよく話を聞くと、森田さんは八王子の僕のちょっと下の後輩で、八王子情報にすごく精通していることがわかったんです。この方々と組むといいなと思って、会社のいろいろな取り組みをお話しして。店長や各エリアマネージャーも交えたワークショップから生まれたのが、『不動産屋がここまでやるか』というコミュニケーションワードでしたね」



◎ブランディングプロジェクトがスタート

このブランディングプロジェクトでは、コミュニケーションワードにつづき、新たに会社案内や名刺なども制作しています。セルディビジョン木部さんが、その内容や意図をお話ししてくれました。

 

 

木部「本当に杉本さんはいろんなことをやられていて、社員たちの中でも『何でここまでやってるのか、どこまでやっているのかが理解しづらい』という声が挙がっていたので、取り組みをどうやって社内外に伝えていくか、という課題がありました。“エスエストラストらしさ”みたいなのは始めからすごくあったので、それに横串を通すように、デザインに落としていきましたね」

 

森田「このロゴのライオンの由来を説明してもらっていいですか?」

 

 

木部「もともとは『八王子で一番になる』という意味で、百獣の王をモチーフに考えました。あと、杉本さんを動物に例えるとライオンっぽいというのも(笑)」

 

↑看板にも登場するオリジナルキャラクター“おヘアーらいおん”。「非常に、つくってておもしろかったです」と木部さん。

 

 

木部「毎年、杉本さんが目指していることや、会社が取り組んだこと、社員に伝えたいことが詰まった経営計画書もつくっています。今は“カルチャーブック”としてお客様にも配っています。とてもユニークな取り組みですよね」

 

◎コンテンツマーケティングとしての看板制作

そして201411月、このブランディングの一環の“コンテンツマーケティング”として【ローカル「おもしろ」看板シリーズ】の制作がスタート。今回のイベントの核心に迫っていきます。

 

 

森田「当初杉本さんから『コンテンツマーケティングをやりたい』という話をお聞きしたことが印象に残っていて。僕や木部さんの中では、“コンテンツマーケティング”といえば、オウンドメディアを使ったWebマガジンとかのイメージだったんですけど……オウンドメディアは必ずしもWeb上のものではなく、『管理している看板がオウンドメディアだった』ということに気がついて、なるほどな……と思ったんですよね」

 

 

森田「たしか最初は、10カ所以上の看板を見てまわった記憶があります。基本は現地視察しながら、この周辺はこんなものがあるんだよ、あんなものがあるんだよって話をしながらつくっていくという、現地主義の制作スタイルを確立しました。エスエストラストさんからの『学生さんが多い』『地名の読み方が複雑』など、地元ならではの情報もいただきながら、うちの社員全員でコピーを考えています。それをデザインしてくれているのがセルディビジョンさん、という関係性ですね」

 

◎手さぐりから始まったコピー制作

ここからはRockaku森田が実際に最初に杉本さんに提出した、看板の方向性についての提案書が登場。どんなことを考え、どんなコピーを提案していたのかを説明していきます。

 

森田「まず、看板の現地視察をした結果、看板自体はいくつかのカテゴリに分かれるんじゃないかという仮説を立てましたね。前例がないことなので、誰が誰に向かって言うコピーにするのかを整理しましょう、コピーのプロトタイプをつくってみて検証しましょう……という感じで制作を進めていきました」

 

 

森田「注意したのは、ふざけすぎて会社の品位を落とさないようにすること。マンションに設置されている看板もあったので、住んでいる人が嫌がったり恥ずかしがったりするものにはしない、という最低限の縛りを設けました。

 

その中でどう個性を表現するか、学校や駅の近さなどの立地をどう意識したものにするかを考えていったんです。普段、僕らはWebや特定の駅などで広告展開を考えることが多く、その場合は11個の広告が連携するイメージはつきやすい。でもこの看板シリーズはとてもエリアが広いので、シリーズとして複数の看板に接触する可能性は高くはないはずだと。だから、11個の看板に連動性を持たせるのは難しいんじゃないかという議論もありました」

 

 

森田「めちゃめちゃ真面目に視点の分析をして、それをベースにサンプルをつくっていって。でも、今見ると何の話をしているのかわからないものや、無駄に何かと張り合うコピーもいっぱいありますね……」

 

↑当時、サンプルとして出していた案の一部。“不動産屋っぽさ”を前面に出したものが多くありました。

 

森田「結局、当初はボツの嵐でした。正直、何が正解かわかんなかったんですよね」

 

木部「最初僕も、『電話番号入れなくていいんですか?』って感覚でした」

 

◎ローカルなネタほど反応が強くなる

杉本「自分がふざけている性格なので、笑えるものにしたいという想いがありました。当時森田さんには『下ネタとか、人を野次るとかじゃない。万人にウケなくていい。そのローカルでしかウケないネタでいい』という話をしていましたね。その地元の人たちだけがクスッと笑って、InstagramTwitterFacebookに載せたいって思ってくれるのが正解。そのやりとりでだんだん絞られていったので、最近はボツはないですね」

 

 

森田「ドツボにハマっていったときは、会社の宣伝にしなきゃとか、うまいこと言わなきゃ、と考えていたんです。でも、40箇所で展開していく中で、ローカルなネタほど反響・反応が強くなるということがわかってきました。つまり、その場の半径200mくらいの人が笑えばいい、という狭い範囲でのコアな表現であるほど、話題性が生まれて、その結果、ローカルの外へも拡散していく、ということが見えてきたんですよね」

 


 

森田「例えば、この国道20号線(甲州街道)の大きい交差点にドーンと立った看板『わたしより、信号を見て。』や、ただただスーパーの目の前に設置した『スーパーにスーパー近い物件、あります。』など。すべて『その場じゃないと成立しない』というのが大きなポイントです。あとは地名をつかったものも強い。これもローカルには響きやすくて、そのぶん八王子や日野の人じゃないとわかりにくいものです」

 

 

森田「きぬた歯科(※)の看板は特に大きく広がったんですけど、ローカルなネタほど、ローカルメディアや地元民が取り上げてくれるんですね。そうすると、それが入口になって広がっていく。狭い表現の方が外に広がりやすいというのが、我々が掴んだ結論でした」

 

※きぬた歯科……西八王子の歯科医院。都内随所に看板を出し、ラジオ広告なども展開している知る人ぞ知る存在でメディア露出も多い。

 

SNSで話題になることもあれば、造語“ミナミノーゼ”がまとめサイトや商業施設のキャンペーンで使われたことも。TV番組『マツコの知らない世界』の巨大看板特集でも取り上げられたそう。

 

森田「巨大看板とは別に入居募集の看板もたくさんやるようになったんですが、とうとうパクられることさえ出てきたんですよね?」

 

杉本「出てきましたね、パチンコ屋さんとか。デザインから全部……」

 

森田「ついにパクられる存在になったという(笑)」



>>>後編へつづく>>>