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広報部2020.06.15

【クライアント×クリエイター「実案件」トークセッションvol.01】 イベントレポート ~後編~

 

>>>前編はこちら>>>

 

 

◎「コンテンツマーケティングを進めたい」の真意とは

プロジェクト開始から今までの一連の流れを振り返ったところで、Rockaku森田から杉本さんへ質問が投げかけられました。

 

森田「杉本さんの『コンテンツマーケティングを進めたい』という当初の言葉はどういう意図だったのか、この場を借りてあらためてうかがいたいです」

 

杉本「京井良彦さんの本『ロングエンゲージメント』と、佐藤尚之さんの本『明日の広告』を読んだときに、何店舗もあるよという自慢をすることじゃなくて、SNSで共感されることがこれからのマーケティングだと書いてあって、そういうことか、と。不動産屋は、ラーメン屋みたいに『美味しいからまた来週行く』というビジネスじゃないので、次いつ来るかわからないお客様には、起こす事業に対して看板とかサッカーとかをコンテンツにしながら、会社への共感を増やそうという方向に舵を切りました。

 

私たちのお客様の半分は、地元の外からやってくる方なんです。その方々に、エスエストラストの名前を認識させるのはちょっとハードルが高い。そういうのは得意な大手のポータルサイトにお任せして、地元の人には、『ああ、不動産といったらエスエストラスト』という発想、つまり潜在顧客が顕在化するときにうちの名前を思い出すようなコンテンツを生み出して、エクイティ化……つまり資産化していこうと考え、実行していきました」

 

森田2014年の段階で、現在のような扱いや認知度の高まりは予想していましたか?」
 

杉本「イメージはしていました。でも満足はしてなくて。もっとなるんじゃないかなと思って、どんどん新しくコンテンツを立ち上げてますね。というか、僕はサッカーが好きなので、八王子からJリーグを目指そうというコンテンツを、ライフワークにしようかなと思っています」

 

3人の「フェイバリット看板」たち

ここからは3人それぞれのお気に入りの看板を紹介するコーナーへ。

 

 

杉本「一番最初につくった看板『わたりより、信号を見て。』は、設置したらすごかったですね、反響が。半分くらいは『ふざけんじゃねえ、お前事故起こしたらどうしてくれんだ』っていう声(笑)。ただ『めっちゃ信号見たよ』とか『SNSに載せた』という声もいただいて、こういうものに反響があるんだな、というのを強く感じました。JR西八王子駅近くに設置した『100円ラーメン』をネタにした看板は、まさに万人ウケじゃなくていいという考えのもの。この『100円ラーメン』って、もう何年も前に閉店してしまった有名店の愛称だったんですよね。八王子の僕らくらいの年代で知らない人はいない存在だったから、狭い範囲で強い共感を得られてると思います」

 

森田「この辺で勘所が掴めてきた感じですね」

 

杉本「この頃から、コピーまでは考えられないけど、『100円ラーメン』とか『野猿街道』とか、こちらからもキーワードを出してコピーをつくってもらうようになっていきました」

 

 

杉本「きぬたさんは本当にいい縁。人づてにつながって、きぬたさんもうちの看板を知ってくれていたこともあって、仲良くなったんです。『俺の看板の上が空いているから、俺をいじくってくれよ』と言われたのがこの看板づくりのきっかけ。森田さんと木部さんと現場で一緒の空気吸って『このキーワードどう?』っておもしろ半分で話しているうちに、木部さんがたしか言ったんだよね、『歯が立たない』って。それをキーワードに指定してできあがったのが、コレ。大ヒット中の大ヒットですね」

 

 

杉本「うちの理念として“三方よし”があるんですよ。うちだけ喜んでもよくないので、地域の人にも喜んでもらって一緒に共感するというのがキーワード。いつも看板をやるときにはそこを考えています。右の『真尾』の看板は、逆に真尾商店さんからやってほしいと頼まれた看板ですよ」

 

 

木部「エスエスさんらしさって何なのか?を考えたときに、地元企業とのコラボなのかなと。この『合格するなら~』がその最初の看板。アイデアが出たとき、下のスクールIEさんに話をつけてもらって、さっきの三方よし、みんなが喜ぶコラボがすごくエスエスらしい、企業文化としていいなと。家具の村内さんや磯沼牧場とのコラボもそうですね」

 

杉本「コラボした企業さんも喜んでくれてました!」

 

 

 

森田「店舗が3階にあるのでわかりにくいのと、高幡不動尊が観光地として活性化していたことから、不動産とかけてつくった看板。もうひとつの長いコピーの看板は、宮沢賢治の『アメニモマケズ』のパロディ。学生が多く住むエリアから帝京大学に向かう坂にあるやつですね。ただ車で通る人ではなくて、毎日そこを歩く学生さんが見て苦笑いするものをつくろうと思ってダメ元で提案したら、採用となりました」

 

◎絶大な「おもしろ看板」効果

ここからは、エスエストラストの広報担当・前田さんが登場。このおもしろ看板によって多くの反響があったそうですが、メディア露出の増加や地元でのコミュニケーションの変化について教えてくれました。

 

 

前田「メディア露出のきっかけは『八王子経済新聞』という地元メディア。Yahoo!ニュースとの連動があって大きく広がっていきましたね。大手紙も地元メディアをよく見ているようで、朝日新聞さんにも取り上げていただきました」

 

森田「野猿街道(やえんかいどう)をネタにした看板が申年にちなんでタウンニュースの正月版にも載っていたのも面白かったですよね」

 

前田「八王子の飲食店やモノ、場所を紹介するガイドブック『八王子本』で取り上げていただいたときは、『一員になれた!』と思って嬉しかったです。TV番組『クイズ穴埋めニッポンガイド』は、きぬたさんに便乗したみたいなかたちですけど(笑)、当社メインで出させてもらいました」

 

↑多摩センターにあるサンリオのテーマパークをモチーフにした看板。サンリオに勤めている方が来店した際に、「キティちゃんはネコじゃないんですよ、キティちゃんはキティちゃんという存在なんです」と言われた……というエピソードも。この会話が縁となり、会社同士のお付き合いが始まったのだとか。

 

 

前田「ここまでですでにご紹介していると思いますが、きぬた歯科さんとのコラボ看板。これが一番反響がありましたね。一般の方がSNSに載せてくれるんじゃないかという狙いはあったんですが、Twitter3万リツイート、5万いいねという予想以上の反響をいただきました。そのSNSをメディアの方が見て、さらに広がっていったようです。

 

また、コワーキングスペースfabbitでは、利用者の方に『ここはエスエストラストが運営している』とご紹介すると、『え、あのおもしろい看板の!?』と言っていただけるようになりました。ちょっと前までは、看板自体の認知度はまあまああったものの、エスエストラストとは結び付いていない方が多かったんです。それが今では『エスエストラスト=おもしろい看板』と認識されているようです」

 

森田「一般のお客様や就活生の反響・効果はありました?」

 

杉本「広告の効果は一発じゃ出ない。だからまだ通過点ですけど、看板やって56年経って、一般のお客さんに浸透してきてはいます。就職希望者の中でも、看板で知ってくれた人も出てきたので、よかったなと。大手の上場企業の雇用条件や待遇面では勝てないので、地元が好きな人を採用するように打ち出しています」

 

◎今後のメディア戦略は?看板への社員の反応は?

最後は、チャット上で寄せられた質問への回答タイム。3つの質問が寄せられました。

 

Q1.今後のメディア戦略はどういった展開を考えていますか?

 

杉本「メディアは意識していませんが、僕が好きなことがエスエストラストのアピールになればいいかなと思っています。ずっと、57万都市である八王子にJリーグを目指すチームがあってもいいんじゃないかなっていうのは漠然と思っていて、いつかサッカーのチーム経営に携わりたいなと思っています。僕がチームのオーナーになるというわけではなくて、サッカーチームを生むムーブメントを起こしたい。好きなことをやってたらきっとメディアも捉えてくれるんじゃないかなと考えています。コンテンツを温めたらメディアが取り上げてくれると思ってるんで、意図的に戦略立てはしない。考えているのは、メディア戦略というより地域を盛り上げる戦略ですね」

 

Q2.ブランディングや看板を進めてきたことで、社員の方々の意識やモチベーションなどは変わりましたか?

 

杉本「『何やってんだ?』っていう意見もありました。ただ、やっていくうちに参画したいという人も出てきたんです。当初は、僕や幹部だけで全部やっていたけど、どんどん巻き込んでいきました。でもすべてが上手くいったわけではなく、中には冷めた目で見てくる人もいたそうですが、それは無視して賛同してくれる仲間を増やすことにフォーカスしました。」

 

Q3.超コアなエリアに向けて広告しようとしたとき、社内や関係者の方から「もっと広いターゲットに向けてのメッセージのほうが良くないですか」などの意見は出たりしたんでしょうか?

 

森田「どっちかっていうと、初期に僕たち制作側が陥った意見ですよね(笑)」

 

杉本「社員の声は聞かず僕と前田とかでやっていました。そのうちやりたいという社員が出てきたんですよね。それがひとつのポイントかなと思っています。マイナス的な目を向けている人は気にもしない。『262』の法則で、真ん中の『6』がどう上に向くかをすごく意識していました」

 

◎看板はひとつのコミュニケーションツール

このイベント内で、「このおもしろ看板シリーズは、大家さんが許してくれる限り続けたい。ひとつのコミュニケーションツールになっているというのは間違いないので、これは続けながらも次のコミュニケーションツールをつくっていきたい」と語ってくれた杉本さん。今後もさまざまな動きが加速していきそうです。

 

現代ではWeb上でのコンテンツに目が向きがちですが、昔から存在している看板をコンテンツとしてローカルとのコミュニケーションを図る、その意義が見えてくるオンラインイベントでした。「ローカルに向けたものこそ、その外に広く発信されていく」というのは、看板という場所が固定されたものであるからこそ考えるべきポイント。他の地方企業でも活かせる部分かもしれません。