Journal
えんぴつころがし2017.02.19
オフロード系クリエイティブの醍醐味
大学生の頃、オフロードバイクにハマっていた。
奥多摩にある林道に入り込んで、断崖絶壁の砂利道を進み、道の行き止まりで10分ほど休憩してまた戻るだけの遊びが好きだった。
見渡す限り、空と木と砂利だけ。少なくとも視界に入る人なんていない。
峠道でコーナーを攻めたり、サーキットでレースに出たりするのとは全く別のバイクの楽しみ方。「オフロード ( off - road ) 」とは、文字通り舗装路を外れた道のこと。誰かと「競う」のではなく、ただ、「わざわざこんな所まで来てるのは俺くらいだな」という達成感と孤独と、あと少しの優越感を味わう遊びだったなあと思う。
先日、スローガンとブランドメッセージを担当させていただいたAID-DCCさんのキックオフパーティーに呼んでいただいた。そこに集まったのはAID-DCCの社員であるところのプログラマーやプロデューサー、ディレクターのみなさん。そして、そんな彼らと共に業界の先端を攻めているであろう外部クリエイターたち。つまり、「サーキット」で勝ち抜いてきている人々だった。
そして口々に、僕が書いたスローガンやメッセージを褒めてくださった。特に役員や社員のみなさんからは、本気で「この言葉を使って会社をもっと魅力的なものに敢えて行くんだ」という気迫があふれていて、「そんなのコピーライター冥利に尽きるじゃないか!」と、密かに気持ちが高揚した。
そして、急にあの林道の風景が蘇ったのだ。一見、「誰もいない場所」とはほど遠いシチュエーションなのだけれど、そしてクリエイターとしては、オフロードどころかメインストリームに他ならない場所なのだけれど、僕は心の中でだけゆっくりと周囲を見渡して気づいてしまったのだ。
「ああ、こんなにも面白い場所なのに、同業者は誰もいないなあ」と。その瞬間、密やかだった気持ちの高揚が、もう、隠しきれない興奮に変わっていた。
この感覚は別に今回が初めてではなかった。僕が愛する仕事には、いつもこの「オフロードの興奮」がともにあったように思う。ベンチャー企業の会議で、税理士事務所の応接間で、四国の山の奥深くで、メーカーさんの工場の中で、お寺の本堂で、IT企業のサービス開発チームで・・・いつだって僕は、同業者がほとんどいないオフロードを走って、そこで自分の仕事の価値を見つけてきた気がする。まあ、ちょっと格好つけすぎかも知れないけれど。
「オフロード」は「サーキット」とは違い、誰かと競うことはほとんどない。でも、その代わり、舗装もされていないし、ガードレールもない。AID-DCCさんのケースは別としても、ゼロからコピーについて知識を共有し、価値をプレゼンテーションしていかなければ仕事にならないと言う意味では、サーキットとは全く別の過酷さがある。
でも、この「オフロード」なクリエイティブワークには、クライアントさんといっしょに道を切り開いていくという、一体感や高揚感が強くて、そこがまた楽しい。だって、そこに今までコピーライターがいなかった業界にあって、Rockakuを呼んでくださっていると言う時点で、そのクライアントさんだって「オフロード」に分け入った仲間なのだから。
とは言え、最近は年の功もあって「サーキット」に出場する機会も少なくはない。でも、そこでいまそこそこ戦えているのも、間違いなく「オフロード」での修行があったればこそだと誇りを持って言える。
僕がこの文章で語りたかった「オフロード」とは、道を外れることではなくて、自分が見たい景色を求めて、自分だけの道を見つけて、そのプロセスさえも楽しみながら進んでいくという、まあ、そんな険しくも夢がある「前進の方法」だ。もし、コピーで自分の道を切り開きたいというオフロードな人がいたら、まずはメシでも食いにいきましょう。