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えんぴつころがし2013.10.04

見積経験皆無のコピーライターが独立して知った「金額交渉」

とある社長の黒歴史

 
代表の森田です。
今回のテーマはズバリ、ゼニの話です。
しかも儲かっている感じではなく、
しみったれた方の話です。
 
僕は今でこそ社長とかいう肩書きで、
会社なんぞを経営していますし、
多くの案件で金額交渉などを担当したりしていますが、
そういったノウハウを学んだことが全くありませんでした。
 
僕を知る人にとっては「またか」という話ですが、
僕がサラリーマンの道から転落し、
フリーランスの荒野に転がり落ちたのは今から6年前のことです。
 
サラリーマン時代の僕は、
いわゆる制作プロダクションに勤めるコピーライターでした。
その会社には営業担当がいて、
制作部隊はほとんどクライアントにも、
依頼元の代理店担当者にも会うことがないという環境。
 
つまりは、自分の仕事の価格を全く知らされずに、
日々「あーでもない、こーでもない」と、
コピーを書いていたわけです。
 
 
自分の仕事の値段を知らない
 
この業務形態は、
まあ、よくあるスタイルの一つではあると思います。(たぶん)
制作担当は制作のことだけ考える。
そういう感じですね。
 
ところが、ある日、
僕はその環境から転がり落ちました。
色々な顛末があって、数週間後フリーランスになるわけですが、
そのとき愕然とするんです。
 
「見積ください」
 
そうです。
僕は自分のコピーの値段を一切知らないのです。
スワヒリ語の基本文法くらい知らないのです。
正直、最初に見積を求められたとき、
全く見当がつきませんでした。
 
そんなわけで、最初の仕事は「言い値」でした。
幸い、仕事をくれたデザイナー師がいい人で、
正直な価格感をざっくり教えてくれたおかげで、
なんとか乗り切れました。
 
はじめて印刷物を丸ごと受注した夜は、
デザイン費や印刷費も含め200万円を超える金額を、
見積書にまとめる作業だけで吐きそうなストレスでした。
 
とにもかくにも、基本的な価格体系の形成には、
ものすごい時間と労力を費やしましたし、
法人化した今も、日々、調整を繰り返しています。
 
 

高いか?安いか?フリーランスのジレンマ

 
安定していないフリーランサーにとって、
本当にしんどいのは、半年後の50万円よりも、
目先の5万円が切実に必要だったりすることです。
そしてなにより、仕事のきっかけを失うことが恐いんです。
 
「いくらくらいかかりますか?」
 
この、極めてシンプルな質問に、
いつだって一瞬の葛藤があります。
 
「できるだけ高いギャラがほしい」VS「高いと思われて断られたらヤバイ」
 
多くの駆け出しフリーランサーたちは、
日々、このジレンマに悶絶しているはずです。(僕だけだったら嫌だ)
なぜなら、必死にがんばっているフリーランサー達は、
骨身に沁みて知ってるからです。
「その仕事を受けた先にあり得る可能性」こそが、
自分の命を繋ぐものだと。
 
 

「チキンレース」と「交渉」の差分

 
だからもう、この段階では「金額交渉」なんて成立してないんです。
「交渉」というのは相手とある程度、条件を出し合う、
対等に近いコミュニケーションですが、
こんなの自分の度胸と向き合うだけのチキンレースでしかありません。
このチキンレース(今にして思えばほとんど独り相撲)からの脱却が、
僕にとっては本当に大きな試練でした。
 
正直に言いますが、
脱却するのに5年くらいかかりました。
 
 

2つの意味で"まけない"ハート

 
まだまだ、「仕事を選ぶ」という身分になれたなんて思っていません。
でも、ありがたいことに、「仕事に選ばれる」という場面は、
少しずつですが、増えてきました。
それはもう、さんざん砂を噛み、煮え湯を飲んできた
(美味しい砂や煮え湯もありましたけど)
元フリーランス社長にとってそれは、涙が出るほど嬉しいことです。
 
そのことに気付いた時、
僕は「金額交渉」のあるべき姿を知りました。
 
それは、(極力)正直であることです。
可能な金額をはっきり提示する。
それが受け入れられれば、
依頼されたことに感謝しつつ、全力で仕事をする。
ダメだったら無理にはやらない。
それで質を落とすよりは、
選ばれたことに対しての誠意があります。
 
あまりにフツーというか、
バカみたいな結論ですが、
これに尽きると思うんです。
 
だから僕は、可能な限りまっすぐに交渉に当たります。
そうすれば2つの意味で"まけない"心を保って、
正直な仕事ができる。そんな風に考えるようになりました。
 
 

以上、キレイゴト終了!

問題は正直になるまでに必要なプロセス

 
と、ちょっといい話風にまとめかけましたが、
僕がチキンレースを止めて正直になれたのは、
なによりも、地道に営業して、色々な失敗もして、
恥もかいて、涙も呑んで、頭も下げてきた結果、
いいお客さんやパートナーさんと出会えて、
「目先のお金」よりも大切にすべきものが増えたからなんですよね。
 
もちろん、縁あって目の前に舞い込んだ仕事は欲しいです。
でも、それをつかみ取るためにチキンレースを独走し、
変にこびてしまうと、実務フェーズに移った後のヒアリングや、
実制作までおかしなことになってしまう。
 
「断られてもいい」ぐらいの覚悟をもって、
正々堂々とお金の話をするようになってから、
コンセプトとか、サイトマップとか、
コンテンツのトーンに対しても、
「無理なモノは無理」「ダメなモノはダメ」
「わかりにくいものはわかりくにい」と、
きちんと意見が言えるようになったと思います。
 
「交渉する」ということは、
相手と誠意と知恵を尽くして対峙すること。
「仕事に選ばれた」と感じるようになったら、
少し考え方を変えてみると、道は開けるものなんですよね。

森田 哲生

森田 哲生 | Rockaku代表

1978年/東京都八王子市出身/多摩美術大学美術学部芸術学科卒業
編集プロダクション、広告制作会社などを経て2007年に独立。Rockaku事務所を立ち上げる。コピーワーク、CI計画、コンセプトワークなどを中心に手がけつつ、企業のアドバイザーやセミナー講師などとしても活動中。得意分野は住宅、士業、ネーミングなど。

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