Journal

えんぴつころがし2009.04.27

「用途」と「かたち」のはなし



とある空間デザイナーが言った。

 
「駅の手摺に点字が貼ってあったりするじゃないですか。
 あのデコボコでね、たばこを消しちゃうヤツがいるんですよ」
 
この話を聞いたとき、自分を含め、
その場にいた全員が同じ反応を示した。
 
「ひどいヤツがいるもんですねー」
 
でも、彼はそれを遮ってこう続けた。
 
「たしかにそうなんですけどね。
 僕らデザイナーはそこで終わっちゃいけない。
 そこには、人間にとって、たばこを消しやすい
 かたちがあったってことに目を向けなきゃいけないんですよ」
 
目から鱗だった。
ひときわ大きく頷いてしまった。
 
「ゴミ捨て場でもないのに、ゴミが捨てられて溜まる場所の姿を知ってこそ、
 秀逸なゴミ箱が生まれたりするんじゃないかって。そう思いませんか」
 
たしかにそう思う。
「たばこを消す」という「用」が、点字の凹凸という「かたち」に出会って、
新たな機能が生まれてしまうこと。
 
道徳的には本当にひどい話ではあるのだけれど、
そこには道徳や制作者の意図を超えた「流れ」と、
デザインの「芽」の様なものがあって、
「ひでえ」という良心的意見を度外視したくなる、
エキサイティングな何かを感じてしまった。
 
人間は、無意識以上、工夫未満の領域で、
「なんとなく」動いてしまう瞬間がある。
それはひどく生理的で、ごく自然な肉体的動作の
流れの中で起こるものだろう。
 
その中にこそ、デザインの源泉が潜んでいる。
そんな風に思わされてしまった。

in 白木屋/全員30歳超えたオッサン集団

森田 哲生

森田 哲生 | Rockaku代表

1978年/東京都八王子市出身/多摩美術大学美術学部芸術学科卒業
編集プロダクション、広告制作会社などを経て2007年に独立。Rockaku事務所を立ち上げる。コピーワーク、CI計画、コンセプトワークなどを中心に手がけつつ、企業のアドバイザーやセミナー講師などとしても活動中。得意分野は住宅、士業、ネーミングなど。

  • twitter
  • facebook

Back Number

えんぴつころがし バックナンバー